鈴木翼を形作る、答えのない問い
ーまず、翼さんが今のキャリアを歩み始めた原点から伺えますか?
実は、最初は動物に関わる仕事がしたかったんです。盲導犬訓練士とかドッグトレーナーとか。人の役に立ちたい、お世話をしたいという想いが強くて。でも当時の先生に「生活が大変だから」と反対されて(笑)。それならと、怪我に苦しんだ野球部時代を過ごしていたこともあって、そういう人をひとりでも減らしたくてスポーツトレーナーを学べる4年制大学を選び、現役でアスレティックトレーナーの資格取得を目標に大学進学をしました。それが最初の分岐点でしたね。
いざ大学で学び、現場に出始めると、また新しい問いが出てきたんですよね。トレーナーとして身体をケアするだけでは、その人の人生を本当に豊かにできているとは限らないんじゃないか、と。
ーその問いはどのように消化していったのですか?
その時ご縁がありまして、コーチングができるようになる資格受講をする機会を頂きまして。始めたときは言語化することが本当に苦手だったんですけど、今ではみんなの前で話すことや言語化すること、思考の整理はできるようになってきたなって感じですね。
学びの中で、今までは自分が「コントロールできない相手」を変えようとして、よくイライラしていたのですが、そもそも自分の相手との関わり方が違う、自分にきちんと矢印が向いていないから目の前の人が変わらないんだって気付かされました。
ーその後にスターバックスでの接客経験があると伺っていますが、コーチングでの学びから繋がってくるものがありますよね。
そうですね。特にスターバックスでの経験では「心理的安全性」の大切さを学びました。目の前の人を幸せにすることについてとことん追求していますし、今でも僕自身の考えの根底に根付いています。自分の関わり方を変えることで、目の前の景色が変わる。それに気づいてから、仕事が本当に楽しくなりました。
それぞれの色が共鳴し、熱量が連鎖する温度感
ーそんな鈴木翼トレーナーは現在大手フィットネスジムを複数店舗を横断的にマネジメントしています。彼の熱い想いに対して、仲間でもある青木トレーナーや荻堂トレーナーの視点からそれぞれ紐解いていくためにインタビューをしました。
大知さん: 僕はTHE PERSONにジョインしてまだ1年ですが、当時翼さんとの最初の面談で「ただのジムじゃなく、人が繋がる場所にしたい」という想いを聞いて、一気に引き込まれたのを覚えています。新百合ヶ丘の店舗は空間がオープンなので、それをどう活かすか。
翼さん: 僕のスタンスとしては、前職のスターバックスで学んだ「居心地の良さ」をベースにしつつ、トレーナー一人ひとりのカラーを殺さないこと。型にはめるのではなく、それぞれの「好き」を店舗の空気に混ぜてほしいと思ってそれを面談の時に話ましたね。
花井: 大知さんは、翼さんの想いをどう咀嚼したんですか?
翼さん: 実はだいちゃんと1on1(ワンオンワン)で目標設定をしていた時、「硬い目標じゃつまんないよね」って話になって。だいちゃんのテーマを決めようと作ったのが**「だいちゃん’Sランド」**というコンセプトでした(笑)。
大知さん: ありましたね(笑)。当時は「新百合ヶ丘の芝を燃やすくらい熱く行こう!」というノリで。チーム内では、お客様を熱く焚きつけるという意味を込めて「熱波師」なんて言葉を使い倒していました。
翼さん: だいちゃんはもともと熱量が高いけれど、それをどう店舗の仕組みに落とし込むか。僕はコーチングを学んでいたので、彼が自分で答えを出せるように大きな枠組みだけを整えて、あとは見守るスタンスでした。
大知さん: 僕はキャンプやBBQが大好きなんです。あの、それぞれが自由に楽しみながらも一つの場所に集まっている「焚火」のような心地よさ。それをグループトレーニングでも表現したかった。3ヶ月から半年かけて、知らないお客様同士が自然と挨拶したり、会話が盛り上がったりする空気を作っていきました。今では、翼さんがふらっと通りかかっただけでお客様が笑顔で挨拶してくれる。あの「温度感」が生まれたのは、翼さんの理論と僕のパッションがうまく混ざり合った結果だと思っています。
花井: 一方で、荻堂さんの場合は、大知さんとはまた違うアプローチでの「育成」だったようですね。
荻堂: 私は……本当に正反対で(笑)。配属初日に翼さんと3時間の1on1があったんです。「あ、この子(おぎちゃん)は言語化が苦手だな」って一瞬で見抜かれて。
翼さん: おぎちゃんは当時、緊張しすぎて「酸素薄いのかな?」って心配になるくらいガチガチでしたから(笑)。彼女の場合は突発的に喋らせるよりも、一度じっくり思考を書き出してもらう時間が必要だと思ったんです。
荻堂: あの時、自分の内側をすべて見透かされている感覚で、本当に衝撃的でした。自分がまだ割っていなかった「卵の殻」を、翼さんに外からコンコンと叩いて割られたような感覚です。
花井: そこから生まれたのが、あのアウトプット施策「おぎちゃんずはうす」だったんですね。
荻堂: はい。最初は自分のことで精一杯でしたが、翼さんに相談しながらセッションをこなしていくうちに、少しずつ視界が開けてきました。ある時、グループセッションで上手くいかなくて落ち込んでいた私を、翼さんがそのまま食事に連れて行ってくれたんです。その時も、私が何に悩んでいるかすべて分かっていて。
翼さん: おぎちゃんは「数をこなさないと成長を実感できない」タイプ。だから、あえて高い負荷をかけました。店舗を掛け持ちさせたり、新しい役割を振ったり。彼女が自分で決めていた「私の限界」を、僕が勝手にこじ開けていった感じです(笑)。
荻堂: 「もう無理です!」って言いたくなる瞬間もありましたけど、翼さんの「いけるっしょ」っていう軽い、でも確信に満ちたテンションに乗せられて(笑)。でも不思議と、翼さんが「絶対に潰れるラインまでは行かせない」と守ってくれている安心感があったから、走りきれました。
花井: その結果、8ヶ月でマネジメントの領域にまで視座が高まったんですね!
荻堂: 今は新百合ヶ丘を中心に見ていますが、お客様から「荻堂さんが戻ってきてくれて嬉しい」と言っていただけるのが何よりの自信になっています。かつての私は指示を待つだけでしたが、今は「どうすれば店舗がもっと良くなるか」を自分で考え、発信できるようになりました。「ひよこ」がようやく自分の足で立ち始めた感覚です。
翼さん: 本当に、表情が明るくなったし垢抜けましたよね。以前はどこか弱々しさがあったけれど、今は一人で凛と立っている。おぎちゃんが「副店舗責任者を目指す」と言ってくれた時は、本当に感慨深かったです。
大知さん: おぎちゃんが変わっていく姿は、僕たちチーム全体にも良い刺激になっています。翼さんが作る「ホーム感」という土壌があって、そこに僕の「焚火」やおぎちゃんの「誠実さ」という種が植わって、それぞれ違う色の花が咲き始めている。
花井: 翼さんはそんなお二人を見ていて、今どう感じますか?
翼さん: 「翼イズム」というか、人を大切にするエッセンスを自分なりに咀嚼して表現してくれる仲間がいるのは、経営者としてもトレーナーとしても最高に幸せなことです。僕が作った空気を、彼らがさらに豊かなものにしてくれている。新百合ヶ丘や国分寺にある、あの「独特の温かさ」は、僕一人では絶対に作れなかったものですね。
可能性を拡げて、正解にしていく
ー翼さんが描く、これからの「未来」について教えてください。
僕の座右の銘に「花よりも花を咲かせる土になれ」という言葉があるのですが、自分が主役になるより、誰かの人生が豊かになるための「土壌」でありたいんですよね。トレーナー、コーチング、そして人が集まれる空間。そこで自分の子供を育てたり、僕を通じて出会った人たちがまた新しい繋がりを作ったり。そんな循環の中心にいたいなと思っています。
ー「トレーナー」という枠に収まらない可能性も感じますが、そのあたりはどう考えていますか?
正直、手段はトレーナーじゃなくてもいいと思っています。だから、人を幸せにしたり、豊かにしたりできるなら、マーケティングでも、他の何かでもいい。ただ、今まで積み上げてきた「トレーナー」という軸があるからこそ、そこに新しいものを掛け合わせて、もっと価値を広げられるはずだという確信はあります。
ー今の年齢(取材時33歳)、これから新しいことに挑戦する際、これまでのキャリアはどんな存在ですか?
邪魔になることはないですね。すべてはどこかで繋がると思っています。僕は「居心地が良すぎる場所」にいると不安になるタイプなんです。「このままでいいんだっけ?」と常に自分に問い続けたい。
ーその繊細な観察眼や、変化に対する敏感さは、ご自身のバックグラウンドも影響しているのでしょうか。
幼い頃から人の顔色や空気の変化には人一倍敏感だったかもしれません。でも、だからこそ今の「相手を深く見る」というスタイルがある。過去の経験もすべて含めて、これからも二の足を踏まずに新しいことにチャレンジし続けたい。関わった人たちが、ふとした瞬間に「あ、あの時の翼さんとの出会いがきっかけだったな」と思い出してくれるような、そんな「豊かな土壌」であり続けたいですね。
